サバト 全アルバム 感想

春だ!5月だ!GWだ!

GWといえば?……そう、Sabbatです。

 そういうわけで、最近サバトを聴き直してるんですが、もう…やっぱ好き❤︎になっちゃいますね。

で、サバトのアルバム全部について取り扱ってるブログってあんまないなとふと思いまして、せっかくなのでサバトのアルバム全部について感想書いちゃおうかと思い立ち、移動中とかにシコシコ書きました。もしよろしければステイホームのお供にでもしてください。

 

・盤外編①:80年代7inch Single

いきなり番外編で申し訳ないんですが、サバトのアルバムについて語るにあたって80年代の音源について触れないわけにはいかないなと思うので、80年代にリリースした7インチシングルについての書いていきたいと思います。

Sabbat

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記念すべき1st EPです。この時期のメンバーはGezol氏(Vo,B)、Elizaveat氏(G)、Ozny氏(G)、Valvin氏(Dr)のツインギター編成でした。その後のバンド史においても末長く愛されることになるBlack FireとMion's Hillの名曲二曲を収録。とはいえこの音源はだいぶイモい印象ですが、それゆえMion's Hillはこのバージョンが一番Manilla Roadとかのエピックメタルの感覚に近いかもしれません。久々に聴き直して思ったのが、Venomみたいなバンドをやろう!ってコンセプトなのにMion's Hillみたいな曲を正式な音源に収録することを選ぶセンスの凄さ。今でこそブラックメタルとエピックなヘヴィメタルの共通性は常識になってますが、それをこの時点で実践してるのは(たぶん無意識というか、バンドとしての路線が発展途上だったというのはもちろんあると思いますが)先見の明ありすぎだと思います。

 

Born by Evil Blood

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2nd EP。この作品からOznyが抜けトリオ編成に。ドラムはMagnesiumやG.A.T.E.S.で有名なゲゾルさんの弟、Samm氏。前作と比べて明らかにスラッシュメタルに接近した作品です。この時期(Envenom発表以前)のサバトの音楽性を私のポーザー・オブ・ポーザー・イヤーで評するならば、全体的にSlayerとSodomからの影響が大きく、遅いパートはCeltic Frostの影響もありそう。一曲で数曲ぶんくらい展開するドラマティックかつシアトリカルな曲構成はMercyful Fateからの影響ってな感じでしょうか。でも、変にテクニカルだったり性急になったりすることはなく、あくまでヘヴィメタルの心を忘れてないのが素晴らしいです。音楽的にはあんまりVenomっぽさはないような気はしますが、ヴォーカルはクロノスを意識してる部分もありそうです。素っ頓狂なハイトーンはトム・アラヤでしょうが。よくよく考えてみたら、Black FireもVenomってよりかはSlayerの1stに入ってそうな曲かも。

というか、この頃からドラマティックな曲展開が完成してるのが凄い。

あと、この前TwitterでゲゾルさんはカオスUKとか某Gも大好きだという話を見て驚嘆しましたが、たしかにPoison Childとか(次作の)Darkness and Evilなんかはモロにハードコアですね。

 

Desecration

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3rd EP。名曲Darkness and Evilを収録。基本的には前作と同じ路線ですが、Children of Hellのイントロなんかは完全にブラックメタルですね。ギターソロも最高です。Crest of Satanはミッドテンポで溜めてから劇的に爆走するサバト節が公式音源としては初めて炸裂した曲ではないでしょうか。アウトロも後のSatan Bless YouとかEnvenom(曲)に繋がる感じもあります。

 

Devil's Sperm is Cold…

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あまりにもジャケが有名な4th EP。私はこれで精液は英語でスペルマだって知りました。そしてこれが二曲入りながら、80年代のサバトでは一番の名作ではないでしょうか。80年代の曲は後にそのかなりが再録されてますが、このEPの曲に関してはダントツでオリジナルバージョン(これ)がカッコいいと思います。

A面は言わずと知れた名曲Hellfire。私がサバトで好きな要素のひとつとして、まるでヘヴィメタルの華であるギターに対抗するように(テクニカルという意味ではなく)主張しまくるベースプレイがあるのですが、Hellfireはその代表みたいな部分があります(ふつーあそこベースでハモるか!?)。B面のImmortality of the Soulはサバトの作曲能力がこれでもか!と炸裂した名曲。複雑かつシアトリカルな曲展開はまさしくブラックスラッシュ版Mercyful Fateだと思います。クリーンギターの使用はサタニックメタルの様式美ですよね。

あと、私はHellfireの"イビルデモンズソー‼︎‼︎‼︎"のヤケクソシャウトが大好きでして、上で音楽性はあんまVenomっぽくないと書いといてアレなんですが、作曲に関しては非常にクレバーでも、アートワークといい、こういう笑っちゃうような紙一重のアホさを決して忘れないところがこのバンドの非常に素晴らしいところであり、やっぱり根底にある精神はVenomなんだな、と思うところでもあります。

 

The Seven Deadly Sins

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90年発表5th EP。後に何曲にも渡って語り継がれるカナシバリシリーズの記念すべきPart1、Possessed The Roomを収録。数あるサバト節のひとつ、左チャンネルと右チャンネルで交互にヴォーカルがひょこひょこするやつはこれが初めて?また、B面は打って変わってコンパクトかつスラッシーな曲が収録されており、リフは彼らの中ではかなりテクニカルで、ヴォーカルも結構ハードコア(っていうかSlayer?)に寄せててシリアスな感じです(でもエンジェ〜!はやっぱりアホだ…)。

 

ここからアルバムについてです。

・1stアルバム『Envenom』

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91年発表1stアルバム。この作品からドラムがSamm氏からZorugelion氏にチェンジ。1stアルバムですが、音楽的には中期の妖しいブラックスラッシュ路線の片鱗は十分に見せつつわりと初期のスラッシーな部分も残っており、初期の音楽性と中期の音楽性のミッシングリンクみたいな立ち位置の作品な気がします。これはElizaveat氏の乾いたギターサウンドにも起因してるかも。とはいえ、前作で過去最高にスラッシュメタルに肉薄していたのが嘘のように今作ではスピード/ヘヴィメタルに回帰しています。当時はヴォーカルの変化に相まってデスメタル化したって言われていたらしく、実際ヴォーカルはロウなスタイルに変化してますが、曲にだけついていうとEvil NationsやDevil WorshipなどのナンバーはBorn by Evil Blood以降では初と言っていいほどヘヴィメタル(どうでもいいですが、今聴き直すとEvil Nationsって明らかにWelcome to Hellを意識した曲ですね。しかも全然Venomっぽくなってないところが面白い)。Satan Bless YouやReek of Cremationなどのスピードナンバーも前作と比較すれば一聴瞭然なほどにスラッシュ感はなくなってます。Sighの川嶋さんはセカンドウェーブのブラックメタルの誕生を過激化したエクストリームメタルシーン内での初期スラッシュへの回帰と表現してますが、この作品でも似たようなことが起きてるんではないでしょうか。より過激さを求めつつ、同時にヘヴィメタルの基礎にこだわる姿勢はまさしくブラックメタルですし、前述したブラックメタルヘヴィメタルの共通性を今作からは意識して表現してるように思えます。今作からキーボードを導入してるのも見逃せません。それと、CarcassvoiceやKing of HellはBathoryからの影響が顕著ですね。特に後者はモロです。またCarcassvoiceは、中期サバトでよく多用されるデス声とヤケクソハイトーンの掛け合い(そして僕はこれがたまらなく好き)をおそらく初めて実践したナンバーとしても重要でしょう。ギターとベースを左右のパンに振り分けて、曲の途中で入れ替えたりする手抜きなのか確信犯なのかわからない遊び心もこの曲がたぶん最初。中期サバトのアルバムには一曲は絶対こういう曲があります。こういう小さなこだわりも私は死ぬほど好きなのです。

また、この作品から彼らは意識的に和旋律をメロディに取り込み始めていると思いますが、特にインスト曲のDead Marchは和旋律を大胆にフィーチャーしたたぶん初めての曲。The Dwelling以降のツインリード曲展開(後に詳しく解説)のプロトタイプみたいな意味もありそうです。

Deathtemptationは最初聴き直したときはCeltic Frostっぽいと思ったもんですが、今聴き直すとなんかZOUOっぽさもあるかも。というか、曲としての完成度高すぎ…。

とはいえ一番好きなのはDevil Worshipです。妖しすぎるしメロすぎる……。のちのThe Dwellingに通じる感覚もある名曲だと思います。

 

・2ndアルバム『Evoke』

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92年発表2ndアルバム。今作から私が人生で一番好きなギタリストの1人でもあるTemis Osmond氏がElizaveat氏とバトンタッチで加入します。サウンドはどちらかといえば尖っていて、ソロのフレージングもペンタトニックスケールやラン奏法を多用するオーセンティックなスタイルだったElizaveat氏と比較して、Temis氏は丸く、太く、粘ついた妖しさ満点の音作り。ソロのフレージングも、Elizaveat氏を意識しつつもよりネオクラシカルだし、トリルを多用したりして妖しすぎる。ゲゾル氏曰く彼は「オジー・オズボーンランディ・ローズにならケツを貸してもいいという人物」らしいですが、実際ランディ・ローズのプレイをより邪悪にしたようなスタイルです。それとTemis氏のギターサウンドの特徴といえばリバーブがハチャメチャにかかっていること。音源でもソロなんかめちゃくちゃリバービーですが、当時のライブ映像を見るとそもそもギターにリバーブをめちゃくちゃかけていてびっくりします。私がリバーブ信者になった原因の1人は間違いなくTemis氏でしょう。

音楽的にいえば、今作からサバトは完全に中期の音楽性に舵を切ったと言えるのではないでしょうか。デスメタル的なロウネスと、Mercyful FateというよりかはKing Diamondからの影響が強そうな、シアトリカルなサタニック・ヘヴィメタルを完全に融合させていると思います。あと、変わらずCeltic FrostやBathoryからの影響も大きそうです。比率でいうと7:3くらいな感じがします。なんとなくですが、この時期の彼らのグルームネスはデスメタルというよりSamaelとかのCeltic Frost由来のブラックメタルに近い気がするんですよね…。感覚としては結構ギリシャ系とも近いように思うんですが、スピード/スラッシュメタルからの影響が顕著に表出してるところが違うところかも。リフ作りを見てみると、Slayer影響下のトレモロリフは散見されるものの、80年代の作品に見られたようなスラッシュメタル的アプローチのリフは大きく減っていて(Metalucifer and Eviluciferくらいでしょうか)、どちらかというとヘヴィ/スピードメタル的なアプローチで曲作りがなされているように感じます。キーボードの使用も前作より大胆で、キーボードによるインストDance Du SabbatからEnvenom Into the Witches Holeの流れは完璧。で、この曲やBeyond the Riverなんかで特徴的なのはブロークンコード(っていうのかな?要するにFreezing Moonのイントロみたいな手法)の使用で、この音楽性でやられると完全にセカンドウェーブ・ブラックメタルの手法に聴こえます。とはいえ92年発表の作品だし、前にBloody Countessとかカナシバリでも似たようなことやってるのでサタニックメタルやランディ・ローズ由来だとは思いますが。私は当時、こんなヘヴィメタルブラックメタルの融合なんてアリなんだ!と衝撃を受けたのを覚えています。また、アコギの使用も本作からですね。中期サバトはアコギやキーボードの使用などのブラックメタルなアプローチを特にこだわって実践している時期で、そこが好きなところです。というのも、そういう飛び道具的な手法を使いつつも、下地の音楽性がヘヴィメタルやスラッシュ/スピードメタルなところが実に非北欧的で、何度も書きますがやっぱりギリシャ系や非モテデスメタルっぽいんです。といっても、時系列的にはサバトを聴いたのが先ですが。

それともう一つ書くべきことは、この時期はヴォーカルワークを相当こだわっているということです。そのこだわりが頂点に達してるのがFetishismとThe Dwellingだと思いますが、本作においても、デスメタル的なグルーミィな吐き捨て(グロウルではない)を始めとして、ウィスパーヴォイス、ヤケクソなハイトーンなど多彩なヴォーカルスタイルで曲をシアトリカルに盛り上げています。また、同じロウな吐き捨てでも何重にヴォーカルを重ねて、唸ったり叫んだりするトラックを入れることでまさしく魔女の饗宴のような妖しく不気味な雰囲気を作り出してます。上でKing Diamondからの影響が大きそうと書きましたが、この部分は確実にその影響だと思います。曲調に合わせて使い分けるってよりかは、コーラス的な足し算で別のスタイルのヴォーカルを重ねてくのがKing Diamondっぽい。ここまで書いてて気付きましたが、Mortuary Drapeは非常に中期サバトに近いスタイルですね…。King Diamondからの影響は大きいだろうし、にも関わらずメインのヴォーカルはデスメタルっぽいし。シアトリカルな部分のハイライトはやはりHellhouseでしょう。この曲はなんとバラードですが、ヴォーカルはデス声、ウィスパー、ハイトーンとてんこ盛りで妖しすぎます。バラードみたいな曲をこういう風に料理してしまうのも、僕の中では非常にブラックメタルを感じるところです。Total Necro…もシアトリカルな名曲ですが、加えて今後のサバトでよく行われる、ギターソロとしてではなく曲の展開として、大幅な展開の変化とともにいわば曲中のインストゥルメンタル的にツインリードを使う手法が初めて出てきた曲でもあると思います(正確にはImmortality of the Soulでその片鱗はあらわれていますが)。

 

・3rdアルバム『Disembody』

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93年発表3rdアルバム。てか、中期サバトはクオリティを衰えさせることなく毎年アルバムをリリースしてるのが凄いですね。本作はFlower's RedやMetamorphosisなどのシアトリカルなナンバーもあるものの、前二作と比べると曲も短く比較的ストレートな作風だと思います。一曲目のSeven Crosses of Damnationなんかはかなりストレートなスラッシュメタルですね。とはいえ、こういうストレートな曲でもイントロのギターソロを2本重ねてちょっとだけ違うフレーズを弾いてみたり、ヴォーカルを左右かやひょこひょこさせてみたり、小さな(そして無意味な?)こだわりを忘れないところがやっぱり素晴らしい。Metamorphosisは本作で最もシアトリカルな曲で、クリーンギターのイントロからちょっとCeltic Frostっぽいミッドテンポの曲に雪崩込みますが、その繋ぎの部分のヴォーカルはシアトリカルというよりもはや演劇です。アホです。

また、Unknown MassacraはなんとD-Beatナンバー!たぶんMasterとかのD-Beatデスメタルからの影響下な感じがしますが、こういう曲をやっちゃうところもMortary Drapeっぽいかも(BOYのレビュー受け売りすぎる………)。また、実は前作からヴォーカルをとっていたテミス氏は今作からはっちゃけて、King Diamondとウド・ダークシュナイダーの合いの子のようなキョーレツな素っ頓狂・ハイトーンスタイルに変化しています。Evoke the Evilは今後のサバトの売りのひとつとなっていくゲゾルさんのロウ・ヴォーカルとテミス氏の素っ頓狂ハイトーンのツインヴォーカルの妙を確立したナンバーで、後半の妖しすぎるツインリードは前作収録曲Total Necro…の発展版のように聴こえます。また、ゲゾルさんのヴォーカルスタイルも若干変化していて、今作からデスメタル的な唱法に地声を混ぜた、よりRawな衝動を感じさせる手法になっていると思います。

ちなみにこの作品、内容が再発で結構変わってまして、CDだとHangarian Death No.5を収録したバージョン(オリジナル版と19年再発NWN!盤)とHangarian Death No.5の代わりにSatanasを収録したバージョン(05年・14年再発IP盤、17年再発Fallen Angels盤)のふたつがあります。で、ややこしいのは05年IP盤の曲目リストにはなんと誤植でHangarian Death No.5の文字もあるのです!私はまんまと引っかかりました。カンベンしてくれ〜。ちなみにHangarian Deathは曲名からもわかる通りハンガリー舞曲第五番(ヘパリーゼのCMの曲)のアレンジなんですが、これがめちゃくちゃカッコいいです。確かみてみろ!

 

・盤外編②:Black Up Your Soul…

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中期サバトの初期曲再録アルバム第一弾です。アルバム尺ですが、再録盤なので番外音作りや演奏はわりと前作Disembodyと地続きで、よりロウ・ダークネスに包まれた初期曲を楽しめます。とはいえ、一曲目Welcome to Sabbatは初めてイントロとしてではなく曲中でキーボードが登場した曲。この曲はBloody CountessやDesecrationにも収録されていますが、個人的にはこのテイクがダントツでカッコいいと思います。イントロの役割としても、この音源でのWelcome to Sabbat〜Black Fireが一番繋がりとしてマッチしてるかなと個人的には感じます。およそ14分にも及ぶMion's Hill再録はヴォーカルと前半のギターをテミス氏が担当しているバージョン。再録アルバム第二弾の…for Satan and Sacrificeにはゲゾルさん(Vo)バージョンが収録されてますが、どちらも後半では延々とElizaveat氏とテミス氏のソロバトルを堪能でき、まるでサタンオールスターのよう。また、90年代の再録アルバムにはそれぞれ一曲ずつNWOBHMバンドのカバーが収録されていますが、本作ではQuartzをカバーしてます。そしてこのカバーが素晴らしい出来で、泣きまくるテミス氏のギターで思わずガッツポーズ必至です。このカバーはBOYのレビューでもメタルパンクの先駆けと評されてましたが、このカバーと(ゲゾル氏ヴォーカルバージョンの)Mion's Hillの再録は、メロディアスでエピックなヘヴィメタルをロウなヴォーカルと演奏で表現する、後のブラッケンド・ヘヴィメタルやメタルパンクの先駆けとも言えると勝手に思ってます。それと、完全に個人的な話ですが、私がメタルコアを好きになった根底には確実にこの時期のサバトのブラック・ヘヴィメタルがあります。それこそ、この音源でのQuartzカバーは、NWOBHM的なしっとり感と暴力性・邪悪さの融合という意味では某バンドの2ndっぽさもあるかもしれません。この感覚って確実にメロデスとは違うものだと思います。

そしてそれとは対照的に、本作での再録版Darkness and Evilは、ロウなヴォーカルも相まってかなりクラスティな仕上がり。中期サバトのヴォーカルってだいぶクラストっぽい感じもあると思うんですよね。サバトとスプリット出してたチリのBomberなんかはまさしくこの辺の感覚を目指してるように思います。

 

 

・4thアルバム『Fetishism』

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94年発表4thアルバム。かなりストレートな作風だった3rdアルバムと比較して、本作はほとんどがミドルテンポ曲のどっしりした作風です。しかしながら、中期サバトがこれまで実践していた妖しくシアトリカルなサタニックさやブラックメタル的な手法がこれでもかと爆発した名作だと思います。まず印象的なのは、Temis氏のプレイが非常にロウになっていること。前作まではわりときっちりしたプレイをしてる印象でしたが、今作でははっちゃけて非常に荒いプレイになっています。Disembody to the Abyssなんかに代表されるように、速い曲でもスラッシーな刻みは減少していて、刻むリフもかなり荒く刻んでます。あと、ギターの音作りも以前よりちょっとシャープな感触に変化してますね。この荒いプレイとちょっとシャープな音作りはそのままThe Dwellingへと引き継がれます。「サバトの本質はミドルテンポ曲にある」とゲゾルさんが何かのインタビューで言ってましたが(たしかカルマグマサカーについてきた冊子かな?)、In Trust We Satan、Satan is Beautifulはまさしくその言を体現してるような味わい深いミドルテンポナンバー。特に妖しすぎるアコギのイントロから始まり、中盤で爆発的に疾走する#3は大名曲。緩急の付け方が素晴らしいといえばBurn the Churchも忘れられません。ドゥーミーな曲調から中盤でスピードアップする際の鬼気迫るヴォーカルはいつ聴いてもションベン漏らします。この曲はLong Way to the Beyondという曲名でほぼ完成系の状態で86年に演奏されてる音源が初期音源集Bloody Countessに収録されているんですが、86年にこんなドゥーミーな曲を演奏するセンス凄すぎ(しかもこのテイク、ヴォーカルはなんとSamm氏!)。

しかしながら、このアルバム一番の聴きどころはやっぱりインスト曲Sausine〜Elixir De Vieの流れでしょう。この二曲は大胆なキーボードの使用も相まって、もう完全に辺境ブラック!まるで中世の暗黒時代を思わせる雰囲気は、MystifierのBeelzebuthとかああいう感覚に近いです。でも作曲の方法論は完全にサバトで、Sausineでは前作収録Evoke the Evilで見せた妖しくアトモスフェリックですらある大仰なツインリード展開に、さらにチャーチオルガンなどの妖しすぎる音使いのキーボードをプラスすることで恐ろしく呪術的な雰囲気を生み出しています。そこから美しすぎるギターソロに雪崩れ込む展開は鳥肌モノ。続くElixier De Vieは、前々作収録Total Necro…や前作収録Flower's Redで表現したKing Diamond影響下のシアトリカルさを100%呪術的に振り切った名曲。邪悪なゲゾルさんのヴォーカルにかぶさるハイトーンが妖しすぎる……。使ってるのはオペラ声ではなくハイトーンですが、ちょっとMystifierの3rdに近いような雰囲気も感じさせます。アウトロにチェンバロが重なってくるのも非モテ心を非常にくすぐられて最高。

また今作はテミス氏作曲のナンバーが素晴らしい出来で、Elixier De Vie同様ギターソロが美しすぎなLost in the Grave、正統派ヘヴィメタルとして完璧なGhost Trainはいずれも必聴の名曲です。

 

・盤外編③:…for Satan and Sacrifice

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こちらも番外で、Black Up Your Soul…と対をなす、90年代の再録アルバム第二弾。とはいえ音作りはBlack Up Your Soul…とも直近のアルバムFetishismとも異なるもので、確信犯的にチープさを狙った非常にロウな音作り。というか、かなり某バンドの1stっぽい……。とはいえこれを初めて聴いたときの私は某バンドなど聴いたことがなかったので、Cirith Ungolの2ndみたいな音だな〜と思った記憶があります。また、今作はBlack Up Your Soul…と異なり新曲が二曲収録されています。

オリジナルはBloody Countess収録のThe Egg of Dappleは原題"まだらの卵"で、再録盤の中でSabbat収録曲を除けば唯一サバトがまだ完全にスラッシュ化する前の曲の再録。サビでクリーンヴォーカル(?)が重なったりして、なんとなく次作The Dwellingへの片鱗を感じさせます。サビでゲゾルさんがデスメタル風ロウ・ヴォーカルのままメロディを歌っているのもメタルコアっぽくて興味深いです。新曲の一つであるGideonはそのままThe Dwellingに収録された様式美・サタニックメタルナンバーで、Black MetalラストのAt War with Satanのように予告編としての意図で収録したのかもしれません。もう一つの新曲Acid Angelは旧ギタリストOzny氏がヴォーカルでゲスト参加しており、ゲゾルさん曰くVenomを意識した曲だそうです。たしかに言われてみればTeacher's PetとかSchizoとかに近い感じのやつですね。こちらに収録の再録Mion's Hillはゲゾルさんヴォーカルで前半のギターソロはElizaveat氏。後半のソロはBlack Up〜収録版と内容は同じ(だと思う…)ですが左右が逆になってますね。Black Up〜の項でも書きましたが、テミス氏のVoがキョーレツに素っ頓狂ではあるけどわりとヘヴィメタルの形式に準じているのに対し、この時期のゲゾルさんのヴォーカルは完全にロウなので、今作収録のMion's Hillはモロにブラッケンド・ヘヴィメタルやメタルパンク/メタルコア感があって最高です。NWOBHMカバーはSatanのKiss of Deathを収録。前作のQuartzカバーがそのしっとり感も相まってまるで某バンドの2ndすら彷彿させたのに対し、本作のカバーはもっと直球にメタルパンクっぽいかも。

 

・5thアルバム『The Dwelling』

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永遠を手にしたアルバム。これほどのものはもう二度と生まれない。メタラーだけではなく、音楽を愛する人全てに触れて欲しい。The Dwellingは些細な感情を挟み込む余地さえもなく、恐ろしいほどまでに完璧。このバンドに神が降臨したとしか考えられない。それとも悪魔と契約したのか。

…ってことで個人的なサバト最高傑作である96年発表5thアルバム。墓まで持ってくアルバム堂々一位です。中期サバトがこれまで実践してきたシアトリカル・サタニックメタル/ブラックメタル的アプローチは前作Fetishismで一気に爆発したわけですが、それがさらに深化して完璧な形で表出したのがこのアルバムだと思います。

まず、彼らの創作意欲が爆発しすぎた結果か、なんと今作は一曲のみ収録で、トータルランニングタイム約一時間。一時間もの大曲を作ってきてしまいました。しかもその一時間中のすべてが黒いというより紫色な瘴気が漂うような雰囲気に包まれており、サバトでも最も妖しく呪術的な作品になっています。

今作で顕著なアプローチを具体的にまとめると、

アコースティックギターやキーボードの使用などのブラックメタル的な手法

②多種多様なヴォーカルワークによるKing Diamondっぽいシアトリカルな表現

③メロディアスなギターソロ(しかもヴォーカルパートにも重ねてくる)

④初期曲Immortality of the Soulなどに顕著な一曲の中に複数曲ぶんの展開があるような複雑な曲構成、及び3rdアルバム収録Evoke the Evilで表現されていたような、大幅に曲展開を変えてのほぼインスト的なツインリードの挿入

⑤前作(Fetishism)からよりいっそうロウになったギタープレイ・ヴォーカル

の5項目になるかと思います。

まず①に関しては、イントロから明らかなように過去最高にキーボードの使用が目立ちます。しかも面白いのが、いままでの音選びはピアノの他にはチャーチオルガンやチェンバロなどのクラシカルなものを使いサタニックメタルの王道を踏襲していたのに対し、今作ではピアノ以外の音色としてダーク・アンビエントで使われるようなチープで無機質なシンセ音をチョイスしています。この非メタル的な音選びのおかげで全編にロウかつアトモスフェリックな雰囲気を醸し出すことにさえ成功していますが、音色がチープなため後のアトモスフェリックブラックメタルのような多幸感ある感覚はなく、あくまで荒涼としているのが素晴らしいです。アウトロなんかはもう完全にアンビエントブラックメタル。ここぞ!という時に登場するピアノは、ジャッケットアートのような中世暗黒時代の雰囲気を演出していて最高。というか、Fetishism〜The Dwellingは、使用してる音階はオリエンタルな和旋律なのに、同時に中世ヨーロッパを思わせるクラシカルな雰囲気をも漂わせてるのが凄すぎます。本作のクラシカルな部分の最たる部分が中盤においてアコースティックギターで奏でられるワルツの旋律で、美しすぎて涙がちょちょぎれること請け合いです。

②に関してですが、本作はとにかくヴォーカルワークが凝りまくってます。ブラックメタルなヴォーカルを中心に(本作のゲゾルさんのヴォーカルはデスメタルというよりブラックメタルのそれに近く、たまに音が割れたりするのも含めてめちゃめちゃクオーソンでカッコよすぎる!過去最高にテンションが高くて燃えます)King Diamondっぽい妖しいハイトーンやウィスパーヴォイス、さらには最初期を思い出させるジャパメタっぽいクリーンヴォイスなど、様々なスタイルの歌唱が随所に挿入され、時には違うスタイルの歌唱でハモったりもします。16:00あたりの部分なんか妖しすぎる……。そして、メインヴォーカルも含めてその全てで非常に演劇的な歌唱表現をしており、まるで不気味な物語の語り部のようにリスナーに迫ります。こういうところもKing Diamondっぽいというか、その影響が今作で最も大爆発してるのではないでしょうか。とくにハイトーンでのハモリはだいぶクワイアっぽくて、これは完全にKing Diamondです。あと、これはどうでもよさそうに思えて非常に大切なところですが、本作のヴォーカルには異様にディレイがかかっており、これが妖しい雰囲気を形作るのにめちゃくちゃ貢献しています。

③は②とも繋がる部分なんですが、この作品はヴォーカルだけでは飽きたらず、ギターソロでもシアトリカルに曲を盛り上げまくります。当時リリースされた際の帯の煽り文句は「サバト 旋律のB級ホラーコンセプトアルバム!」だったらしいので、本人たちも確信犯だったのだろうと推測しますが、本作はサバトで随一にメロディアスなアルバムでもあり、テミス氏のギターソロはどれも妖しく美しいです。しかも、ヴォーカルパートとギターソロパートを完全に分けておらず、ヴォーカルがギターソロを盛り上げ、ギターソロがヴォーカルを盛り上げるような場面が多々見られるのが素晴らしすぎる。その際たる部分がイントロでしょう。アトモスフェリックなキーボードが鳴り続ける中、トライバルな演奏から1:00ほどになると一回目のギターソロに雪崩れ込みます。その後もう一度トライバルなパートに戻り、1:30ほどから2回目のギターソロに突入と同時にヴォーカルも入ります。しかもここのヴォーカルが、いきなりブラックメタル・シャウトとジャパメタ歌唱の二重になっています!これだけで何か壮大な物語の序章が語られているのがわかりますが、このヴォーカルの裏で泣きまくっているギターソロが完全にヴォーカルの盛り上がりと呼応していて素晴らしい…カッコよすぎます……!!これぞ、シアトリカル・ブラックメタルの極地です。ちなみに盛り上げまくる演奏のせいで壮大っぽく聴こえますが、歌詞はかなりしょーもないです(無限にダジャレを連発している)。他にもいくつかこういう部分があるのですが、個人的にいちばん好きなのは42:45あたりの鬼気迫るシャウトからギターソロに雪崩れ込むところ。研究室でこれ聴いてたとき、このパートで思わずア………フ!!!!と叫んでしまいました。それと、Gideon(…for Satan and Sacrificeにも収録。16:36あたりからのパート)なんかはまるでKing DiamondのDressed In Whiteを思わせるツインリードが印象的な正統派メタルパートで、こういう様式美メタル的な曲をアルバムに収録したのはこれが初めてではないでしょうか。ていうか、Dressed In WhiteのヴォーカルワークはまさにThe Dwelling(というか中期サバト)っぽいですね。

④について、先程のギターソロとは別に、本作では数々の壮大なツインリード(というか、リードギターとリードベース?)のインスト・パートが曲展開として組み込まれています。これはおそらくEvoke the Evilなどで実践していた手法が最大限に爆発した結果だと思われます。そしてこの要素は後期サバトにおいてさらに深化を遂げることになります。面白いところは、ツインリードパートになるとガラリと曲展開が変わるのに、最後にはちゃんと元の曲展開に戻ってこようとするところでしょうか。この辺のバランス感覚が素晴らしいと思います。それと、最初の方でゲゾルさんのベースのギターに対抗してる感じが好きと書きましたが、今作のリードパートではベースも全然ギターと同じフレーズを弾いて(というかなんならベースの方が弾きまくってるくらい)て最高です。本来リードギターの裏ではベースはコード感を保つためにバッキングに徹するものですが、本作でのベースはバリバリにリード楽器です(というか、サバトのこういうパートでは基本そうだけど)。普通そんなことをしたらコード感がなくなってスカスカになっちゃうはずですが、サバトはなぜか全く気になりません。彼らの魔力は恐ろしいです……。

また、本作の曲構成力には目を見張るものがあると思います。そもそも一曲で一時間のものを飽きさせず聴かせるのが凄すぎますが、細かい例をあげるなら、例えば5:17あたりからについて。それまでの爆走ブラックスラッシュ展開から一転してシンセ音を使ったアトモスフェリックなパートに移り、軽くギターソロ。かと思えば突如シャッフルビートの正統派メタルなバッキングになり、ソロも一気にメタリックに盛り上げます。かと思えば先ほどのアトモスフェリックパートに戻りますが、今度はキーボードがピアノに変わっており、演奏はどんどん盛り上がっていく。そこでさらにギターソロ、ブラックメタル・シャウト、ハイトーンヴォーカルが重なってきて、もう何が何だかわからないくらいに盛り上がって最初のパートが終了。文字で説明されたところで何が何やらさっぱりだと思いますが、要するにフリ・タメからの盛り上げが絶妙に上手いと思うのです(これは先程紹介したイントロにも言えることですね)。私は音楽的知識が皆無なので、フリ・タメとかいうアホみたいな表現しかできません。最初に軽くクライマックスのパートを振ったあと、一旦タメのパートを挿入して焦らしてから本格的にクライマックスに突入しています。加えて凄いところは、ヴォーカルをクリーンヴォーカルと重ねることによってイントロでの伏線も回収してクライマックス感を上げ、曲に一区切りがつくということを表現してるところ。すげー…。これを最初の10分でやってのけるのはとんでもなさすぎです。

⑤がこれまた面白いところで、本作はサバト史上最もインテレクチュアルな作品であると同時に、最もロウ・パワーに溢れる作品でもあります。まずギタープレイについて、前作から減少しつつあったスラッシーな刻みリフが本作ではほとんど見られなくなっており、本作のほとんどが開放トレモロおよび熱血ヘヴィメタリックなリフで構成されています。荒々しく、時折ハードコアを思わせるほどのロウなギタープレイは、本作をブラックメタル、もっと言えばBathoryの3rdを最も想起させる作品にも仕上げていると思います。途中モロ13 Candlesなパートも出てくるしね…。ヴォーカルも今までで最もロウ・パワーに溢れておりめちゃくちゃ邪悪。上でも書きましたが、今作のヴォーカルはデスメタル的なロウネスをほぼ捨て去っており、完全に感情に任せて吠えまくるスタイルにシフトしているので、そこがまたBathoryを想起させる部分になっています。また、それぞれの演奏だけでなくアンサンブルもロウというか、かなり自由度の高いものになっているのも面白いところ。ヘヴィメタル、とくにエクストリームメタルは本来リフで曲が進行するので、各楽器陣(とくにギター)の演奏の自由度は限りなく低いはずですが、本作は"だいたいで"フレーズが決まっていると思われる箇所も多く、70年代的なジャム感も感じさせます。つまり、本来ギターがリフを弾く場面でもハチャメチャやってたりするってことです。これはブラックメタルスラッシュメタルとしては異様なことではないでしょうか。とくに9:30からのパートなどは、明らかにスラッシュメタルな曲調なのに、リフを刻まないどころか明らかにその場の思いつきでリフを変えてたりしてハチャメチャです。ヴォーカルもテンションが上がりすぎて適当になってたり、時には意図的にテキトーに歌うパートがあったりしてハチャメチャ(34:28あたりからのパートのサビ部。完全にアホです)。このIQの高さとIQの低さの完璧なバランス感覚もサバトがずっと実践してきたことだと思いますし、本作がその極地であると言えるのではないでしょうか。

好きすぎてアホみたいに長くなってしまいましたが、私の人生を終わらせた戦犯アルバムのひとつであるので許してください。

 

・6thアルバム『Karisma』

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99年発表6thアルバム。おそらく彼らの中で最も有名だと思われる超名曲、亡霊侍を収録。僕が初めて聴いたサバトもこれでした。前作The Dwellingで彼らが目指していたであろう(と勝手に妄想している、俺は桐生院)シアトリカル・サタニック・ブラッキングヘヴィメタルを究極の形まで完成させてしまったからか、今作からその音楽性を大きく変化させています。後期サバトの幕開けです。以前と比べて変化した部分として、まず最も大きいのはヴォーカルでしょう。今までのエクストリームなスタイルを完全に捨て去り、80年代でのクロノス影響下っぽいスタイルへと回帰しています。しかし80年代ではほぼ確信犯的にヤケクソ気味だったのに対し、後期サバトではあまりヤケクソ感はなく、まるで魔女が歌っているかのようなおどろおどろしいスタイルになっています。しかも今作に関しては歌詞がほぼエセ中国語なため、前作が中世の黒魔術師ならば今作はまるで中国のインチキ占い師が歌っているよう。時折飛び出す素っ頓狂なハイトーンもエセ中国感満載な胡散臭さを演出しています。音質も以前と比べめちゃくちゃシャープかつクリアになり、妖しさは半減してしまいましたがよりダイナミックなサウンドに。

作曲の面に話を移すと、今までも意識して和音階をメロディに使ってきた彼らですが、今作からよりそれが顕著に、言ってしまえばわざとらしさを感じるほどになっています。個人的な妄想ですが、中期まではサタニックな表現・音階の延長線上として和音階を使用していたのに対し、後期からはより明確にジャポネスクなオリエンタリズムを表現しようとしているように感じます。それによって、妖しい西洋魔術のようだった前作までと違い、今作からは胡散臭〜い東洋魔術が演出されてます。というか、後期サバトの音楽性を一言で表すなら"胡散臭い"、この一言に尽きると思います。

それともう一つ書いておきたいのが、前作The Dwellingで完成させたツインリードで曲展開手法が後期ではさらに深化をとげて使われまくっているということです。中期サバトまでで(The Dwellingを除いて)最も複雑な構成の曲であると思われるImmortality of the Soulと本作収録の魔窟を比較してみるとその差は瞭然で、間奏部分を前者はリフ主体+そこに乗るギターソロで曲を展開していくのに対し、後者では明らかにリードギターによるインストで曲を展開していく手法に変化しているのがわかります。Fetishismまでは前者の手法が使われていましたが、The Dwelling〜後期以降はリードギターインストで間奏部分を展開していくのにこだわっているように思えます。魔窟や破流魔化貪、次作収録のNekromantikの間奏部分なんかは、そこだけでひとつのインスト曲になってしまいそうなほどの完成度で必聴です。

どうでもいいですが破流魔化貪は実は彼らの中ではかなりVenomっぽいナンバーでもあると思っていて、ちょっとAcid Queenっぽいかも。しかし中盤から超オリエンタルな東洋魔術展開になってしまうのが面白いところ(Baltic Harmageddon収録のIncubus Sucubusも同様の展開の曲で必聴です。というか、この音源収録の二曲はめちゃくちゃVenom!!!!!)。

ここまで後期サバトとひとまとめにしてきましたが、正確には本作と次作Satanaswordではさらに音楽性に変化があると思っています。というのも、本作は結構The Dwellingを引きずっているところもあるのか、ほとんどスラッシーな刻みリフが登場せず、単音トレモロかコード掻き鳴らしリフで曲が作られていて結構ブラックメタルっぽいです。次作以降はもっとスラッシュメタルに回帰しており、そういう意味では今作もEnvenomと同じように中期と後期のミッシングリンク的な側面もあるかも?唯一大蛇だけは次作に繋がるスラッシーな曲で、次作はこの曲を発展させていったような印象も覚えます。

ちなみにこの作品実は英語版も出ていて、こっちの亡霊侍はヴォーカルが完全にヤケクソなアホさに振り切っていて最高です。

 

・7thアルバム『Satanasword』

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00年発表7thアルバム。相変わらず和旋律マシマシで、前作で確立したうさんくさ東洋魔術・ブラッケンドスラッシュメタル路線が今作でも存分に披露されていますが、前述したように今作からはさらにスラッシュメタル色がグンと大きくなっています。80年代のスラッシュ路線に大きく戻ったようにも感じますが、80年代と比べるとかなりメロディアスで、原点に戻りながらもよりヘヴィメタルの心を大切にしているように感じます。

あと、刻みが80年代の直線的なトレモロではなくちょっとベイエリアっぽいザクザクした刻みになってるのが面白いところ。でもアメリカンな感触は皆無です。

ラストに大作が二曲待ち構えてますが、音楽性がスラッシュメタルに回帰したからか全体的には比較的ストレートな曲が並んでいる印象を受けます。ストレート曲部門では、名曲CharismaとAngel of Destructionがやっぱり聴きどころで、東洋の神秘と超キャッチーなサバトスラッシュメタルが見事に融合した名曲。Kiss of Lillethなんかはサバトお得意のシャッフルビート・スラッシュメタルの妙が久々に聴けるナンバーですね。後半の大作DraculaとNekromantikは前作の破流魔化貪や魔窟を思わせる中盤ツインリード展開を有した曲で、どちらも素晴らしい出来。特にDraculaのBathory影響下の荘厳な曲調から中盤のネオクラシカルな疾走パートへ一気になだれ込むドラマティックな展開は本作一番の聴きどころ。この曲のツインリードはカッコよすぎます。Nekromantikは2nd収録Hellhouse以来の妖しいバラードですが、前作収録の魔窟に勝るとも劣らない劇的な曲展開にはただただ拳を握りしめることしかできなくなります。

 

・8thアルバム『Karmagmassacre』

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03年発表8thアルバム。テミス氏が参加した最後のアルバムでもあります。前作ではまだ見られた大作主義が今作ではほとんど息を潜めており、ストレートなスラッシュメタルナンバーがアルバムのほとんど占めています。一曲目の衝撃度こそ前二作に劣りますが、後期サバトでも演奏のテンションは最高潮で、スラッシュメタルとしてはサバトの作品の中でも最高峰ではないでしょうか。また、曲がストレートになったとはいえ曲の構成力は全く衰えておらず、むしろ曲のドラマティックさを保ったまま曲をコンパクトにまとめることに徹しているように思えます。

また、前作よりもさらにスラッシーになっていると同時に、前作よりもさらにヘヴィメタリックなメロディにも溢れており、テミス氏のギターソロはどの曲においてもサバト史上で白毫の出来。前作が妖しさとメロディの中間のようなプレイが多かったのに対し、今作ではよりストレートにメロディアスなプレイを心掛けているように感じられます。あと、本作のギターソロは妙に浮遊感ありますね。

加えて、Demonic Serenadeではクラシカルな音使いのトレモロリフで北欧メロディックブラック的なアプローチを見せていたり、The Letter From Deathではアコギを使用、久々にシアトリカルなヴォーカルワークも聴かせてくれていたりと、実は後期サバトの音源では最も中期っぽい要素のある作品でもあると思います。

一曲目The Answer is Hellは邪悪なスラッシュメタルナンバーで、後期で最も80年代サバトを感じさせます。Darkness and Evilタイプのハードコア・スピードメタルナンバーBlack Magical Circle of Witchesはコンパクトな曲ながら劇的な曲展開を見せる名曲。前作まで実践してきたツインリード曲展開曲の短縮版とも言えるかもしれません。浮遊感のあるBメロは妙にブラックメタルです。ちなみに Karismaの英語版のボートラとしてこの曲のZorugelion氏ヴォーカルバージョンが入っているんですが、これが完全にいぶし銀のおっさんヴォーカルで最高!Possession of the Reaperは本作最高のメロディアスなギターソロが聴ける名曲で、リフも一番の小気味良さ。Demonic SerenadeとThe Letter from Deathは上述したように中期サバトを思わせる曲で、前者はクラシカルなメロディも相まってかなりThe Dwellingです。後者はKing Diamondなシアトリカル・メタルナンバーで、間奏のツインリード展開もドラマティックです。

 

・9thアルバム『Sabbatrinity』

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11年発表9thアルバム。本作から、脱退したテミス氏の代わりにMagnesiumのDamiazell氏が加入しています。全曲速い曲のアルバムというのが本作のテーマらしく、その通り初の疾走曲だけで構成されたアルバムです。しかもただ速いだけでなく、いままでの複雑でドラマティックな曲構成は最小限にとどめて、シンプルかつキャッチーであることに徹しているので、ウダウダ考えずひたすらヘッドバングして楽しめる痛快なブラック・スラッシュアルバムになっているのではないでしょうか。

本作はもう、ひたすらにキャッチー、キャッチー、キャッチー!!もともとキャッチーさはサバトの大きな魅力のひとつでしたが、本作はその方向に完全に振り切っていて、どの曲のサビもライブで一緒に歌ったら最高に楽しいこと受け合いです。

また、Damiazell氏は元Magnesiumのキャリアを活かしてるのかわかりませんがどの曲でも熱血ヘヴィメタルソロを披露していて、キャッチーなアルバムの方向性も相まっていちいちリスナーにアツく拳を握らせてくれます。結果的に彼が参加したアルバムは(現時点では)これのみになってしまいましたが、ハードロックの影響も大きいと思われるElizaveat氏、妖しくクラシカルなTemis氏のプレイと比較してDamiazell氏のプレイはもっともヘヴィメタルの王道に忠実だったのではないかと勝手に思っています。

Black Metal ScytheはTotal Desasterを彼ら流のVenomナンバーとして解釈してしまったような名曲。Witch HammersはBathoryのSacrificeを思わせるリフも相まってかなりVenomyですが、サビが死ぬほどキャッチー!どうでもいいですが私はこういう歌メロはないけどバッキングは歌メロを載せられそうなシンプルなコード進行だけが鳴ってるようなサビが大好きでして、これはメタルコアでも多用されるスタイルです。しかしこの曲も中盤でオリエンタルな展開になってしまうのが、破流魔化貪などを思わせて彼ららしい。Northern Satanism〜Root of Ultimate Evilはダークなブラックスラッシュナンバーで、この辺は海外の新世代ブラックスラッシュバンドからの影響を逆輸入してそうな感じもあるかも。特にRoot of Ultimate Evilのダークなリフとサビは最高にカッコいいです。

このアルバムもIron Pagasus盤とR.I.P.盤で内容が若干異なっており、前者にはWitche's Torchesのバージョン2、後者にはWitche's Torchesのバージョン1を収録しています。というか今書いてて思ったのですが、サバトってSatanとかDemonとかDevilと同じかそれ以上の頻度でWitchって単語を使ってますね。Venomやサタニックなヘヴィメタルバンドは結構Witchって単語を使ってますが、あまりその後のブラックメタルバンドでWitchって単語を使ってるバンドっていないような気がします。幅広い音楽性を吸収している彼らですが、やっぱり彼らの根底にあるものはヘヴィメタルであり、何よりVenomなのでしょう。